たった1行の描写で読者に多くの情報や、感動を与える

心理描写でも情景描写でも、行動描写でも文脈の中で的確な1行を書けば
読者に多くの情報や感動を与える。
と、書くと何のこと? と言われそうだ。

重松清さんという最高にすばらしい文章を書く方がいる。2000年下半期に
直木賞を受賞している小説家だ。

その方の「その日のまえに」
という小説がある。
内容は余命の告知をされた妻と、新婚の頃の思い出の地を二人で歩くというものだが、
電車に乗っている場面での16字の心理描写が、読者に感動とたくさんの情報を想起させる。
その16字がこれだ。

僕はきちんと笑えているだろうか。
「その日のまえに」文庫本217ページより

この16字の心理表現の前後の文章も含めて示すと
こうなる。

窓のガラスにうっすらと映り込む自分の顔を見つめて、思う。
僕はきちんと笑えているだろうか。
電車は東京湾をなぞるような形で、都心から梗概へ向かう。
「その日のまえに」文庫本217ページより

この16字の前の書き方は本当に哀しさを表現していて、自然に次の情景描写につながる。
このような表現手法は一定以上のレベルの作家なら誰もが書いている。

そういう一文が書けるか書けないかで文学作品の魅力度は変わる。

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