三崎亜記氏の「鼓笛隊の襲来」を前衛小説として安倍公房氏が書いてみると・・・(1)

三崎亜記氏の「鼓笛隊の襲来」という小説があります。
139回の直木賞候補作品にも選ばれた作品で、

赤道上に、戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。(三崎亜記氏の「鼓笛隊の襲来」冒頭部分)

で始まり、その鼓笛隊がせまってきて通過するまでを描いた文庫本でわずか18ページの短編小説です。

短い小説なのでこの作品を読んでいただいてからこのページをご覧いただければ
理解が深まると思うのですが、
まずは、139回の直木賞の選考委員の選評の引用から
雰囲気だけでもつかんでいただければと思います。

阿刀田高氏選評 引用
「――もったいないなあ。つらいなあ。――と思い悩んだ。」
「アイデアだけが先行し、私たちの日常との絡みあいに足りないものを感じた。
百枚にまで膨らませて書いたら、どうだったろう。
このままではアイデアを無駄使いしているようにも思え、作者のつらさに同情を覚えてしまうのである。」

北方謙三氏選評 引用
「寓意性はあるが、情況の説明が多い。すべての説明を排除して、
細部の描写を積み重ねることに、もっと力を注ぐべきだった。」
「この作者の、卓抜なイメージの描出力は、長篇でこそ生きるのかもしれない、と思った。」

五木寛之氏選評 引用
「私は最初、(引用者中略)推したが、ほかに支持する人がなく、あっさり空振りに終った。
表題作も興味ぶかく読んだし、『突起型選択装置』の奇妙な魅力も捨てがたい。
エンターテインメント界の安部公房といった作風は、今後どこまで進化するのだろうか。」

選評をご覧いただければわかるように
この小説、鼓笛隊を何かのメタファーとして描いているとは思えないのです。
そして、物語は鼓笛隊が来るということに対して人がどう思い対応するを描いていくわけです。
題材としては面白いのですが、人が描けていない のです。

たとえば、
安倍公房氏の 箱男
は、ダンボール箱にはいって生活するという物語だけではなく、ダンボール箱を材料として
見るものと見られるものや、本物と偽物といったことを描き、
最終的に箱男自身が変わっていく(一歩をふみだす)物語になっています。
それゆえに 寓意性を含んだ人を描いた物語として 純文学 に含まれるわけですが、
この鼓笛隊の襲来については
その作り方ゆえに芥川賞の候補作品には選ばれていないわけです。

ただ、題材からすれば、前衛文学作品として芥川賞を狙えるように作り直せると感じます。
そのため、今回は安倍公房氏が前衛小説として書いてみるとどうなるか?
というテーマで。

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