安部公房風小説は、こうして作る。その1、「ららら科学の子」を安部公房が書くと・・・

安部公房の小説・文学作品を論じるとき、その創造性、不条理性、小説の構造で論じる
人は多い。
日本でも戦後およそ80年で彼ぐらいしか登場しなかった 完成度の高い前衛文学 を作れる小説家であるから
文学的・哲学的に彼の作品を語る人は多いのもわかるが、私はそんなことに興味はない。

「箱男」が何を意味するのか?
とか、偽のぼくの存在とかは私にとってどうでもいい話で、
私にとっての興味はどうしたら 安部公房作品が作れるのかに集約される。

そこで、「安部公房風小説は、こうして作る」
まずは、理論抜きで 作ってみたい。
とは、いってもどうしたらいいのか? と考えて、
安部公房作品に転化できそうな題材の既存小説を安部公房風に作りかえてみようと思う。

大きくいって、安部公房風の文学作品を作るためにはポイントは2つしかない。
それが何かはあとで書くことにして、さっそく
有名作家の文学作品を、安部公房風に作りかえ、その特徴がわかる部分だけを抽出した文章にしてみようと思う。

そんなわけで、題材は矢作俊彦氏の 「ららら科学の子」
ちなみにこの小説で矢作俊彦氏は三島由紀夫賞を受賞している。
小説の内容は、殺人未遂にとわれて中国に逃げた男が30年ぶりに日本に戻るという内容だ。

こうして彼は、新幹線〝こだま〟で日本に帰った。
東京駅で降りると、何より先に公衆電話を探した。
誰でもいい、誰かと話したかった。松崎のバスターミナルで買った西伊豆観光の紙袋を足のあいだに挟んで、
電話の前に立った。

矢作俊彦氏の 「ららら科学の子」
冒頭部分引用

この小説を安部公房風に書き直すとこうなる。
(あくまで私の感覚でデフォルメしたものです)

【書き出し】
こうして、
三島駅に着いた。改札をとおり地下通路を新幹線のホームに向かった。
駅前にいた背広の男は五・六番ホームと言っていたが、そこには金属製の閉じられたゲートがあった。
改札とおぼしきそのゲートを通過するにはどうしたらいいのか戸惑い、立ちすくんでいるところを
後ろから声を掛けられた。
振り向くと、そこには制服で徽章がついた帽子の男がいた。
一瞬、公安民警だと考え、みまがえたが、
ここは日本なのだということに気づき、いっきに体中から力が抜けた。

・・・・・
新幹線の車窓から見える景色は透き通って見えた。少なくとも
大陸のpm2.5に満ちた、くすんだ大気とは異なるものがそこには流れていた。

・・・・・

【最終章 結び】
こうして、
三島駅の改札をぬけた。その風景に、男は強い既視感を感じていた。
以前、来た場所だろうか?
駅前にいた背広の男は五・六番ホームと言っていたが、そこには金属製の閉じられたゲートがあった。
改札とおぼしきそのゲートを通過するにはどうしたらいいのか戸惑い、立ちすくんでいるところを
後ろから声を掛けられた。
振り向くと、そこには制服で徽章がついた帽子の男がいた。

と、
ここまで読んでおわかりいただけただろうか?
安部公房風の文学作品を作るためにはポイントは2つしかない。ということを。

ひとつは、きわめて独創性の強い構造・構成、世界観
そして、もうひとつは科学的に表現しようとする文体
なのだ。

科学的な表現をしようとする文体は訓練で書けるようになる。
それでは、この〝きわめて独創性の強い構造・構成、世界観〟をどのように作り出すのか?
それは次回。

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